オオセンチコガネは普通は赤金~銅赤色をしているのですが、昭和の時代には京都に生息する緑色に輝くものをミドリセンチ、奈良に生息する瑠璃色に輝くものルリセンチと呼んでいました。当時の我々学生が手にしていた図鑑(保育社の標準原色図鑑「昆虫」や原色日本甲虫図鑑Ⅱ)でも瑠璃色のオオセンチコガネの採集地は奈良と書いてあったし、インターネットなんて無い時代、日本各地に点在する糞虫愛好家が手軽に情報交換する術もなかったので、そう信じて疑いませんでした。つまり、「ルリセンチコガネ」といえば奈良なのだと。
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 時は流れ平成20年9月に出版された、「日本産コガネムシ上科図説」 第一巻 食糞群(監修:コガネムシ研究会)を見て驚いた。いろんなところにルリセンチやミドリセンチがいるではないか! さらに驚いたのは「ルリセンチ」「ミドリセンチ」という言葉自体がこの図鑑に載っていない。確かにオオセンチコガネは奈良でも色彩の個体差が大きく、緑っぽい個体や赤っぽい個体も採れていたのでうすうす感じてはいましたが、こんな形で「奈良・京都は特別」ではないという証拠を突きつけられると、ちょっとね。(でも、この図鑑はホント素晴らしい! いろんな角度や細部の拡大写真がふんだんに使われているため見やすく、日本の糞虫愛好家必携の図鑑だと思います。)

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 奈良の東大寺正倉院の有名な宝物にコバルトブルーに輝く瑠璃杯(たしか教科書にも載っていたような・・・)をご存知でしょうか。正倉院宝物の中でもひときわ注目されるその瑠璃杯とともに、瑠璃色の「ルリセンチコガネ」は1300年以上も前から古都奈良においては特別な存在だったに違いありません。奈良公園で瑠璃色に輝くオオセンチコガネを見つけたら「あっ、ルリセンチ!」と大きな声で叫んでみてください。きっといいことがありますよ。
 下の写真は、エゾハルゼミが鳴き出す今年5月下旬に奈良県吉野の大台ケ原で撮ったもの。ピカピカしていないのは、たぶん越冬個体だからでしょう。奈良公園でも春の個体には擦れて艶がないものが多く、手足の棘も鋭くありません。上の瑠璃杯に負けないくらい美しいルリセンチの写真を載せたほうがよかったですね。それはいずれまたご紹介いたしますので、気長に待っててください。
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