むしむしブログ

タグ:オオセンチコガネ

 たいていの人は「むし社」というとキョトンとして「ムシシャ?」と聞き返します。しかし、東京都中野区にあるむし社(2019年4月に中野駅から高円寺駅の方に移転)こそ、昔から我々虫好きが必ず何度かはお世話になる超有名な虫屋さんです。生きた虫も、虫の標本も、虫の採集道具も、虫の本も、そして虫の情報も、とにかく虫に関することならここに行けば何とかなるというそんなオールマイティなお店。『月刊むし』を何十年にわたって毎月発行し続けているのもこのお店です。もちろん関西出身の私も何度もお世話になってます。
 いや、別に私はむし社の手先ではないのですが、先月12月にコガネムシ研究会のメンバーの方々が作ったダイコクコガネの本がむし社から出版されたので、そのお祝いパーティーに行ってきました。出版記念パーティーといっても糞虫好きのおじさんの飲み会とどこが違うんだ?! みたいな十数名の集まりでしたが、めちゃくちゃ糞虫愛にあふれておりました。そこで、むし社の方と懇意になり、なんとならまち糞虫館で『むし社の糞虫本3部作』と呼ばれる百年に一度しか出版されない(⁉)隠れた名著の3冊『日本のオオセンチコガネ』『日本のセンチコガネとその仲間』『日本のダイコクコガネの仲間』を委託販売することになったのです!
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 いずれもハードカバーでA4くらいあるので持ち運びには適しませんが、カラー写真満載で、見ているだけでも十分楽しめます。読めばさらに楽しめます。糞虫館で最も手に取って見てもらう機会が多いのは『日本のオオセンチコガネ』。生息地によってオオセンチコガネの色が異なっており、ルリ色をしているのは奈良だけだという私の説明に驚いた人がこの本を手にすることが多く、各県の様々な色合いのオオセンチコガネが紹介されているこの本はすごく人気があります。
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 ただ、丁寧にページをめくると、三重県の伊勢神宮や熊野市、和歌山県、屋久島にもルリ色の個体がたくさんいることがわかるので追加の説明が必要になり、ちょっと面倒臭いんですけどね(笑)。子供が買うには値が張るので、ご両親から未来の昆虫博士へのプレゼントにいかがでしょう。売切れ次第、販売終了ですのでお早めに。

今日はここまで。
また明日。
 

 いやー、素晴らしい!龍谷大学の卒業論文でオオセンチコガネの体色の謎に迫る研究をした学生さんが、その後、大阪府大大学院の生命環境科学研究科でその研究を継続、オオセンチコガネの飼育を続け、なんと先日「トンネルに糞を詰め込んで産卵しました」との連絡が。(写真1、2枚目)
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 つまり、昨年9月頃に採集したオオセンチコガネを越冬させて、この春に産卵に至ったということです。

 卒業論文では、体色の違いは交尾の相手選びには影響しないことを確認されていますが、今回のこの卵の両親は共に赤系統なので、遺伝により体色が決まるのであれば、F1は赤系統になる可能性が高く、ならなければ謎が深まるってところでしょうか。別のアプローチとして、孵化した幼虫を奈良公園のシカ糞で育てるっていうのはどうでしょう?もしルリ色の成虫になれば、体色はその地域の糞の成分に影響を受けるということだし、逆に幼虫時代の食べ物は体色に影響しないとの結論が得られれば、それだけでも体色に影響する要素が大きく絞られるのではないでしょうか。飼育ケースは複数個あるとのことですので、オオセンチコガネの卵がまだ他から見つかれば、自由な発想でいろんな実験にトライしていただきたいものです。なお、「ご意見・ご質問・アドバイスがございましたらぜひお願いいたします。」とのことですので、皆様からのコメントやメールをお待ちしております。
 あ、そういえば昨年コガネムシ研究会の総会でオオセンチコガネの産卵に成功した小学生の女の子が発表してましたが、その後もオオセンチコガネを飼育しているようです。 ブログ名:「虫のあれこれ。時々書評。」
→ http://fabreimomushi.hatenablog.com/entry/2019/02/07/203716

今日はここまで。
また明日!

 前編の続きです。ならまち糞虫館で受ける最も多い質問がオオセンチコガネの色彩に関すること。「なぜ、こんなに綺麗な色をしているのか?」「なぜ、地域によってこんなに色が違うのか?」 学生の竹本さんは、誰もが抱くこの謎の解明に有用な実験をしているので、掻い摘んで紹介したいと思います。(話が複雑になるので体の大きさに関する部分は割愛しています。)

 実験は、まず京都、滋賀、奈良の3地域からオス・メス計108匹のオオセンチコガネを集め、個体識別マークを刻み、交尾頻度と鞘翅の反射スペクトル、身体の大きさの関係を調査しました。
 結果は、3地域混合でおこなった交尾実験では、同じ地域の個体どうしの交尾回数が特に多いということはなかった。また、体色の類似度と交尾頻度の関係において影響を示す有意な数値は得られなかったとのこと。
 よって、オオセンチコガネは配偶者を選ぶ際に、相手が同じ地域であることは重要ではない、色の違いが配偶者選択に与える影響が大きい可能性は低い、と考察している。

 なるほど、つまり奈良公園の青色のオオセンチコガネは意識的に地元の青いオオセンチコガネを選んでいるわけではないんだ。これが確認できただけでも大きな一歩だと思います。とすると、京都府南部の宇治のあたりには昔から美しい緑色のオオセンチコガネがいるので、中期的には奈良県北部(奈良市)に青緑色のオオセンチコガネが当然出現するはず。鈴鹿の山のオオセンチコガネも緑色らしいので、奈良県東部も青緑色のオオセンチコガネに変わっていくのか・・・。
 いや、すでにその変化は起きていて、先輩世代の糞虫好きの方は、「最近の奈良公園では、ルリセンチコガネの緑っぽいのが増えている」と言っています。また、私の40年前の標本には青緑色のものも少なくないのですが、当時は緑色の強いルリセンチコガネは奈良公園では珍しくて大変綺麗に見えたので、あえて標本に残していたのです。1966年に保育社から出版された標準原色図鑑第2巻「昆虫」(著:中根猛彦ほか)には「紀伊半島のもの(奈良を含む)は藍色に光り、ルリセンチコガネ subsp.ruri Nakane という。」とあり、緑っぽさを全く感じさせない記述がなされています。つまり、50年以上前は藍色と表現されるほど濃い青色だった奈良のオオセンチコガネは、周囲の緑色の個体とも交配を重ね、青緑色の個体が増えてきているのかもしれません。 
 ん?だとしたら、かつてはミドリセンチコガネとまで呼ばれた京都府宇治市あたりの美しい緑色のオオセンチコガネは、最近は青っぽくなっているはずですが、どーなんでしょう? そもそも、この私の妄想は「色彩は遺伝する、混ざると中間色になる」ということが前提になっているので、やはり繁殖・累代飼育して、F1やF2の色がどうなるか、確かめる必要がありますねー。

 奈良公園周辺は、この50年で小川の水量が減少したり湿地が消滅するなど目に見えて乾燥してきており、こういった環境変化が色彩に影響している可能性も捨てきれません。だって、遺伝説より環境説の方が、現在地域によって大きな色彩変化があることの説明がつきやすいように思えるのです。
 奈良公園のルリセンチコガネは、もしかすると我々人間に何か大切なメッセージを送っているのかもしれません。私にはもうムリですが、若い世代や竹本さんのような学生さんには頑張ってもらって、糞虫からのメッセージを読み解いていただきたいものです。

【参考】 
「オオセンチコガネの色彩変異と配偶者選択」(2019年1月23日)
龍谷大学 理工学部 環境ソリューション工学科
竹本 碧 
丸山 敦 准教授
(ならまち糞虫館でもご覧になれます)

今日はここまで。
また明日!

 
 

 実に興味深いタイトルですね。オオセンチコガネの色彩変異は地域によって大きく異なっており、近畿をざっくり分けると奈良のルリ色系京都南部から滋賀のミドリ色系京都西部から兵庫のアカ色系という感じでしょうか。ならまち糞虫館でも奈良、京都、兵庫のオオセンチコガネを並べて、同一種でありながら大きく色彩が異なることを実感していただいています。で、必ず聞かれるのが「なぜ、生息地によってこんなに色が違うんですか?」。
 私はこれまでは、得意の”オウム返しの術”で「なんででしょうーねー、不思議ですよねぇ。」で終わらせていたんですが、なんと京都の学生さんがこの謎に正面から自らの卒業を賭けて挑みました!「オオセンチコガネの色彩変異と配偶者選択」は、そんな学生さんの想いの詰まった力作なのです(写真1枚目)。
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 昨年の夏の終わり頃でしょうか、昨年、一人の学生さんが糞虫館に来てオオセンチコガネの色彩変異を調べるようなことを言っていたので、頭で考えるのは簡単でも実際には飼育・繁殖が難しく、まだ誰もその謎を解明できていないようなことをわかったよーなふりをしつつ伝えて、それきり忘れていた(!)のです。が、先週末お母様と2人で来館され、見事卒論としてまとめ上げて無事卒業・進学されたとのこと。おめでとうございます! その時にいただいたのがこのタオル(写真2枚目)。いいでしょ。でも、昨年お会いした時に、感謝されたり役に立つようなことを言った記憶がないんです・・・
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今日はここまで。
タイトルの卒論の中身については、また後日。お急ぎの方は、ならまち糞虫館で見ることができますよ。

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