前編の続きです。ならまち糞虫館で受ける最も多い質問がオオセンチコガネの色彩に関すること。「なぜ、こんなに綺麗な色をしているのか?」「なぜ、地域によってこんなに色が違うのか?」 学生の竹本さんは、誰もが抱くこの謎の解明に有用な実験をしているので、掻い摘んで紹介したいと思います。(話が複雑になるので体の大きさに関する部分は割愛しています。)
実験は、まず京都、滋賀、奈良の3地域からオス・メス計108匹のオオセンチコガネを集め、個体識別マークを刻み、交尾頻度と鞘翅の反射スペクトル、身体の大きさの関係を調査しました。
結果は、3地域混合でおこなった交尾実験では、同じ地域の個体どうしの交尾回数が特に多いということはなかった。また、体色の類似度と交尾頻度の関係において影響を示す有意な数値は得られなかったとのこと。
よって、オオセンチコガネは配偶者を選ぶ際に、相手が同じ地域であることは重要ではない、色の違いが配偶者選択に与える影響が大きい可能性は低い、と考察している。
なるほど、つまり奈良公園の青色のオオセンチコガネは意識的に地元の青いオオセンチコガネを選んでいるわけではないんだ。これが確認できただけでも大きな一歩だと思います。とすると、京都府南部の宇治のあたりには昔から美しい緑色のオオセンチコガネがいるので、中期的には奈良県北部(奈良市)に青緑色のオオセンチコガネが当然出現するはず。鈴鹿の山のオオセンチコガネも緑色らしいので、奈良県東部も青緑色のオオセンチコガネに変わっていくのか・・・。
いや、すでにその変化は起きていて、先輩世代の糞虫好きの方は、「最近の奈良公園では、ルリセンチコガネの緑っぽいのが増えている」と言っています。また、私の40年前の標本には青緑色のものも少なくないのですが、当時は緑色の強いルリセンチコガネは奈良公園では珍しくて大変綺麗に見えたので、あえて標本に残していたのです。1966年に保育社から出版された標準原色図鑑第2巻「昆虫」(著:中根猛彦ほか)には「紀伊半島のもの(奈良を含む)は藍色に光り、ルリセンチコガネ subsp.ruri Nakane という。」とあり、緑っぽさを全く感じさせない記述がなされています。つまり、50年以上前は藍色と表現されるほど濃い青色だった奈良のオオセンチコガネは、周囲の緑色の個体とも交配を重ね、青緑色の個体が増えてきているのかもしれません。
ん?だとしたら、かつてはミドリセンチコガネとまで呼ばれた京都府宇治市あたりの美しい緑色のオオセンチコガネは、最近は青っぽくなっているはずですが、どーなんでしょう? そもそも、この私の妄想は「色彩は遺伝する、混ざると中間色になる」ということが前提になっているので、やはり繁殖・累代飼育して、F1やF2の色がどうなるか、確かめる必要がありますねー。
奈良公園周辺は、この50年で小川の水量が減少したり湿地が消滅するなど目に見えて乾燥してきており、こういった環境変化が色彩に影響している可能性も捨てきれません。だって、遺伝説より環境説の方が、現在地域によって大きな色彩変化があることの説明がつきやすいように思えるのです。
奈良公園のルリセンチコガネは、もしかすると我々人間に何か大切なメッセージを送っているのかもしれません。私にはもうムリですが、若い世代や竹本さんのような学生さんには頑張ってもらって、糞虫からのメッセージを読み解いていただきたいものです。
【参考】
「オオセンチコガネの色彩変異と配偶者選択」(2019年1月23日)
龍谷大学 理工学部 環境ソリューション工学科
竹本 碧
丸山 敦 准教授
(ならまち糞虫館でもご覧になれます)
今日はここまで。
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タグ:ルリセンチコガネ
フンコロガシの糞玉争奪戦
フンコロガシ(スカラベの仲間)が糞玉を奪い合う様子がナショナルジオグラフィックに掲載されています。コチラです。→https://video.nationalgeographic.com/video/animals-source/00000168-5db2-d3cc-a1e8-5dbff9bb0000
この映像はコガネムシ研究会の方のFBで見つけました。「コガネムシ研究会」http://www.kogane.jp/には糞虫に超詳しい方がたくさんいらっしゃいます。ぜひ一度、HPを覗いて見てください。ハマります。
今日はここまで。
再見!
糞虫こぼれ話(ルリセンチコガネの集団)
今日来館されたチョウ好きの方が10年ほど前に、奈良の正倉院付近の窪地で朽木をのけた時のこと。そこにルリセンチコガネが何十匹もうじゃうじゃ重なり合っていたのを息子さんと一緒に見た、とのことでした。10匹20匹ではなく、数えきれないほどの数が密集していて、あまり衝撃的な光景だったため、いまだに忘れられず、糞虫館が出来たのを知ってわざわざ伝えに来てくれたのです。ちょうど先日(大寒の頃)私は地下数センチという浅いところでセンチコガネを見つけており、もしかしたらセンチコガネの仲間は意外に浅いところで越冬しているのではないかと想像したところだったので「おおっ、これはもしやルリセンチコガネの集団越冬か?!」と思いました。
まあ、話をよく聞くと、たぶんムラサキツバメというチョウの出現を期待して奈良公園に来て、窪地にはワラビが茂っていたような・・・とのことだったので、その記憶が正しいとすると季節は冬ではなく、テントウムシのような集団越冬していたわけではない可能性が高いということになります。でも、なぜあんなに多くのルリセンチコガネが集まっていたのか、謎は深まるばかりです。数日後、奥様と一緒に再度その場所を訪れた時は、数匹のルリセンチコガネが残っているだけだったそうです。
観察した時期の記憶がかなり曖昧でしたが「昔の野帳を調べればわかるかも」ともおっしゃっていたので、続報を期待しています。ご本人は写真を撮っておけばよかったとしきりに残念がってましたが、うわーっ!と思った時に限って何もしてないことってありますね。私も昨夏、飼育していたタマオシコガネがシカ糞で糞玉を作り始めたとき、何枚か写真は撮ったのですが、なぜビデオモードで撮らなかったのかと、ホントに残念に思っています。おかげで、来館者の方にはビデオを見てもらう代わりに、私がタマオシコガネになりきってその動作を再現しています。
今日はここまで。
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マレーシアの糞虫
謹賀新年 今年もよろしくお願いいたします。
昆虫の宝庫、マレーシアに行ってまいりました。あ、もちろん家族と観光旅行です。でも、糞虫
も見ることができたので、少し紹介します。
エンマコガネの仲間(Onthophagus属)3種(写真1枚目)とコエンマコガネの仲間(Caccobius属)が1種観察できました。敢えて適当に日本の種類にたとえて言うと、左から「①剛毛の生えた肌荒れしたコブマルエンマコガネ♀」11mm、「②くもったツヤエンマコガネ」7mm、「③毛深い赤銅色のナガスネエンマコガネ」6mm。スイマセン、余計わからなくなりますね、いい加減な事を言うと。あと、コエンマコガネ属と思われる個体はチビコエンマコガネ♀のようにも見えたのですが、まだよくわかりません。1年前の反省を踏まえて、チビコエンマコガネかどうかしっかり調べてから書くことにいたします。
①(写真2枚目)海岸沿いの遊歩道で午前11時頃、排泄されたばかりのサル糞に飛来したところを叩き落として1頭捕獲したほか、17時頃再度そのサル糞を観察すると、糞下の砂地5cmの穴の中で1頭発見。新鮮なシカ糞の内部及び糞下の穴からも計3頭見つかりました。5頭の前胸背のコブの形状に明確な違いは見られませんでした。全長約10~12mm程度。
②(写真3枚目)比較的ツヤが強いものの、ツヤエンマコガネやマエガドコエンマコガネほどの強いツヤではありません。頭部の2本の横隆起があるほかには目立った特徴はなし。前種と同様に、シカ糞、サル糞で観察されましたが、確認できた3個体とも地中には潜っておらず、糞の中や下で見つかりました。いずれも全長7mm前後。
③(写真4枚目)赤銅色で頭、胸、腹とも多くの毛が生えており、前翅の基部に黄土色の斑紋があります。熱帯雨林のトレッキングコース途中の草食性獣糞の中から多数観察することができました。全長はほぼ6mm前後。
大きめの深い穴もあったので、シャベルくらい持って行ってたら、もう少し大物に出会えたかも・・・。スイスの山岳地帯でも4種類ほどのマグソコガネの仲間しか見つけることができませんでしたが、観光目的と言いながらも昆虫天国のマレーシアで4種類というのはどうなんでしょう。チョウやトンボは結構見つけて写真に撮ったりしたんですけどねー。
今日はここまで。
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そろそろ冬の糞虫の出番です
が、そこはさすがに奈良公園。よく観察すると、冬の糞虫たちが活動を始めているのを見ることができます。11月の第一週目に既に多数のチャグロマグソコガネ(ミゾムネマグソコガネも混ざってるかも)やネグロマグソコガネ、マグソコガネ(写真1枚目)がシカ糞から見つかっています。他府県ではみつけにくいオビモンマグソコガネが見つかるのも時間の問題でしょう。
昨年はコイツラの幼虫らしき芋虫を野外で観察しましたが、今年は糞虫館で飼育してみたいと思います。おそらくは春先には新成虫が羽化するものの、そのまま地中でジッと動かず春、夏、秋を過ごし、気温が10℃を下回る日が続くと地上に現れるはず。
全くの当てずっぽうを言ってますが、答えは一年後に。でも、来年まで覚えていられるか不安です。昨日何食べたかも思い出せないのにね。
今日はここまで。
また、明日!