アカマダラエンマコガネ(Onthophagus lutosopistus)を飼育したことがある人は、そう多くはいないでしょう。なぜならこの種は沖縄島よりさらに南西の八重山諸島などにしか生息していないからです。『日本産コガネムシ上科図説(食糞群)』(監修:コガネムシ研究会)によると、真夏の7~9月以外が出現期で、国内ではやや珍しい種のようです。生息地までたどり着ければ、みつけることはさほど難しくはないといったところでしょうか。
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 先日(R5/3/9)、大学受験を終えた某糞虫男子が石垣島に行って採集(R5/3/6)したアカマダラエンマコガネを生きたままならまち糞虫館に持ってきてくれました!1匹は輸送の途中で息絶えていたので標本にしました(写真2枚目)が、もう1匹は調子がよさそうだったので、シカ糞の塊を入れて5分くらいして見ると潜り込んで自分のスペースを作り、そこでくつろいでいました。(写真1枚目)
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 図説にはアカマダラエンマコガネは「腐敗動物質、牛・人等の糞に集まる」との記載があり、セマダラマグソコガネのようにシカ糞では長期飼育が難しい種もいますが、コイツは餌としてはシカ糞でも全然OK!です。八重山諸島には野生のシカが生息していないだけなのかもしれません。2個体ともメスで体長約8㎜前後で、この種としては標準サイズ。体形は典型的なエンマコガネの形で、ツノやコブは無く、光沢は鈍く、色は真っ黒ではなくやや褐色でニッコウコエンマコガネに近い色味です。オスは前脚が長く伸びるので、図説で見るたびにナガスネエンマコガネに似てるなーと思ってましたが、実物はフトカドエンマコガネぐらいの大きさがあるし黒褐色なので、見分けるのは難しくありません。ただ、前翅のオレンジ色の模様は、意外に目立たないので要注意です。

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 飼育するにあたり、奈良市の気温は日中は20℃近くまで上がりますが夜は5℃前後まで下がるため、生息地の石垣島並みに温かくするため部屋のオイルヒーターを24時間稼働させて15℃~24℃にキープ。電気代がめっちゃかかるけど、エアコンよりもはるかに温度変化がマイルドなので、アカマダラエンマコガネに満足してもらえると思います。水槽もたくさん置いてあるので湿度も相当あって、この部屋に入ると南国気分が味わえます。メス1匹での飼育ですが、野外で既に交尾をしている可能性があるので、実は産卵するのを期待しているんです。亜熱帯の島の環境は整えたし、餌はシカ糞でいけそうだし(写真3枚目)、あとは私の根気が続けば、繁殖の報告ができるかもしれません。期待せずにお待ちください。

今日はここまで。
週末は糞虫館で会いましょう!
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